お茶のお稽古をしていて「晴れの舞台」といえばやはりお茶会になる。
正確に言えばお茶事のほうがよりフォーマルではあるけれど、一般人はそうそう お茶事に招いてはもらえない。
それでもお茶を楽しみたいと考える人は大勢いて、略式のお茶事(お茶会)がさまざまな場所で開かれている。
お茶会は正式なお茶事の簡略版であり、その省略のしかたはその時々で違う。
一番よいのは、お茶事のルールを知っていて、「今日はここが略されて いるな」とか、
「ここが合体したな」とか、その変化を吸収していくことのようだ。
<型>を重んじる世界ではあるけれど、<臨機応変>もできなければ気の利かない愚か者、
という烙印を押されてしまう。
お茶会のお客の数多いほど、<お茶席に入ってお菓子とお茶をいただいて帰る>というだけになる。
言い出せば細かなお作法はあるけれど、特に難しいこと はないといっていい。
逆に言えば、作法を知らない人が隣に座っても、恥をかかせることなく無難に席を進行させられるのが、
座を共にするお茶人の嗜みだと思う。
作法、作法というけれど、流儀が異なれば作法も異なり、これが絶対というような所作はない。
ただ一点、皆で快くお茶をいただきましょうという心だけが、 流派に属してもいなくても、どんな流派でも、
お茶席を共にしたすべての人々に一致するのだ。
どんなにキャリアの長い方でも、尊敬する茶人でも、失敗談はたくさんお持ちである。
失敗を恐れてお茶会に行けなくなるよりも、恥をかきながら覚えていこう、
くらいの気持ちでいるほうがいいのかもしれない。
普段松村栄子著「ひよっこ茶人の玉手箱」マガジンハウスより
まとめ:CyberDecker田村敦美
松本栄子
1961年静岡県生まれ。筑波大学第二学群比較文化学類卒業。
90年「僕はかぐや姫」で海燕新人文学賞、
92年「至高聖所」で芥川賞を受賞。
主な著書 に「僕はかぐや姫」「至高聖所」「セラヴィ」「あの空の色」
「001にやさしいゆりかご」「生誕」などがある。
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