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【第23回 大事なことは小声でいう】

市田ひろみさんの

第23回 大事なことは小声でいう

「先生、まったけ入ってまっせ」「先生、鮎、解禁になりましたさかいな 」
 

京都のお料理屋さんに行くと、小声でこんなことを耳打ちしてくれることがあります。
もう、あなただけですよ、大切な人にだけ熱ーいサービスです、といった感じです。
それが、解禁すれすれの日だったりすると「このお店で大事にしてもらってるなあ」と思うし、
そのひと言で「ああ、うれしい」と感激してしまいます。
料理屋の「入ってまっせ」は、京料理というのが物量勝負でなく、旬に価値をおくことから
きています。
「こんなにぎょうさん入りましたんや」
「あれもおいしいでっせ、これもおいしいでっせ」ではなく、
「鮎はいってまっさかいに」なのです。


大阪湾からも、丹後からも離れていて京都は海から遠い。
碁盤の目のように造成されたいわゆる町中からすれば、野菜を作っているのはずっと郊外です。

京都には外に開かれた七つの道があり、そえは足利義政の正室、日野富子が関所を設けて
通行税をとったことで知られていますが、季節の野菜や魚類は、みんなその街道筋から入ってきました。
「若狭鯖街道」
という呼び名がありますが、これもそのひとつで、ひと塩ものの魚が人の背にかつがれて、
若狭からこの道を入ってきたのです。


食材は遠路はるばる運ばれてきて、新鮮な素材はほんとうに貴重でした。だから大宮人たちは、
質素な素材をいかにおいしく食べるか、貴重な一品をいかにして最高のものに仕立てるか、
そういうことに腐心したのです。宮廷料理の流れをくんだ京料理は、わずかな食材 を大切に調理します。
ゆずを散らしたり、山椒を効かせたり、素材そのものの味をじょうずに引き立てているのです。
また、桜の花びらやもみじの葉っぱな どをあしらって、季節感を添えるのも心にくいばかりの演出です。


そして、その料理をさらに味付けするのが、「鮎入りましたえ」のひと言です。
京都でも一流のお店ほど、このひと言の技をみごとに生かしてるなと思います。人をもてなすには、
必ずしも大げさにすることはありません。要は、相手を「特別」な気分にさせてあげることです。
お料理屋さんは、そのひと言を誰につけるか、たったそのひと言で、おなじみ さんの気持ちを
つかんでいるわけです。 これを使わない手はないでしょう。
同じ条件ならば、小さなプラスアルファでも、ほかの人より頭ひとつ上に出るこ とができます。
その道理は、以外と見過ごされています。 気遣いなんかするだけ損というギスギスした
ご時勢ですが、わずかな気遣いで味方をふやせるなら ば、安いものだと思います。


市田流仕事上手の秘訣。それは「プラスアルファ」。
京都の町で生き残っていくためのコツでもあります。




市田ひろみ著『京の底力』 ネスコ文芸春秋より

まとめ:e京都ねっと 小山


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